
企業価値の向上に欠かせない存在となった『社外役員』。その役割や責任の重さについて、具体的な実務は意外と知られていません。そこで今回は、『社外役員の極意』著者・柴田千尋氏と当社代表・高橋啓が対談。現役社外役員だからこそ語れる、プロとしての『光と影』や理想的なガバナンスのあり方に迫ります。
プロフィール
柴田千尋(しばた・ちひろ)公認会計士。大手監査法人で会計監査等に従事後、アクサ生命保険株式会社で内部監査業務やコンプライアンス業務を経験。2020年、上場会社の社外役員(常勤監査役)に就任。社外役員や公認会計士を支援するため、転職エージェントであるサニーキャリア合同会社を創業。現在は同社を経営しながら自身も現役の上場会社社外役員を務めており、上場会社4社での社外役員経験を持つ。著書に『社外役員の極意』。3児の母。
高橋:柴田さん、この度は『社外役員の極意』のご出版、ならびにベストセラー三冠、本当におめでとうございます!
柴田:ありがとうございます。よろしくお願いいたします。
高橋:本日は、現役の役員として、そしてエージェントとして市場の最前線で見られているリアルなお話を伺いたいと思います。
■なぜ「社外役員」になったのか?葛藤と決断のストーリー
高橋:まずは、柴田さんご自身が社外役員(常勤監査役)になられた経緯から教えてください。どのような転機があったのでしょうか?
柴田:一番の転機は、3人目の育休明けで職場復帰を控えていたタイミングでした。10年前に監査法人で一緒だった先輩から、突然「顧問税理士を務めている上場会社の常勤監査役をやらないか」とお誘いを受けたんです。
高橋:お子さんが3人いらっしゃる中での未経験のポジションへの転職は、かなりの迷いがあったのではないですか?
柴田:はい、「今の安定した環境を離れて未知の世界に飛び込むべきか」「教えてくれる上司もいない未経験の仕事で本当にやっていけるのか」と、夜な夜な葛藤しました。ただ、週3日の出社で済むなど柔軟な働き方が可能だった点に魅力を感じたんです。子育てと会計士としての専門性を活かしたキャリアアップが両立できると考え、決断しました。
常勤監査役になってからは時間と心の余裕が格段に増えましたね。その後、私のようにキャリアや働き方に悩むプロフェッショナルを支援したいという思いから、サニーキャリアを立ち上げました。
■「プロの社外役員」の条件とミスマッチの現実

高橋:現在はエージェントとして多くの方をご支援されていますが、プロフェッショナルとして「機能する社外役員」の共通点は何だとお考えですか?
柴田:大きく分けて3つあります。1つ目は「口だけ評論家」にならないこと。経営陣の提案のリスクを洗い出して「ダメだ」と否定するだけでは建設的な議論の妨げになります。グレーな部分を少しでも白に寄せるためのアドバイス(代案)を出せる人が真のプロフェッショナルです。
高橋:リスクを取らないことのリスクも意識し、一緒に課題解決に取り組む姿勢ですね。
柴田:はい。2つ目は、経済的・精神的な「独立性」です。社外役員として最も大切なのは、経営陣に対して耳の痛い話を堂々とできる関係性です。1社の役員報酬に依存していると厳しい意見を控えてしまう恐れがあるため、複数社の兼務や本業を持つことで「いつでも辞められる」という選択肢を持てることが最強の土台になります。
3つ目は「他責思考」ではないこと。社外役員は業務執行を行わないため不祥事の際に経営陣のせいにしがちですが、「気軽に相談できる関係性を築けなかった自分にも落ち度がある」と認められるコミュニケーション能力が不可欠です。
高橋:エージェント目線から見て、「紹介しやすい人」「紹介しにくい人」の特徴はありますか?
柴田:紹介しにくいのは、話を聞かずに自分の意見を押し付ける「決めつけ系」の方です。大企業出身でしっかりとした経験があっても、ベンチャーのギャップに馴染めず頭ごなしに否定してしまう方は難しいですね。逆に、ご年配の方でも話をちゃんと聞いて寄り添ってくれる方は非常に紹介しやすいです。
■企業目線での「社外役員選びのリアル」とガバナンスの罠
高橋:私は常々、「社外取締役は会社の価値を映し出す鏡のようなもの」とお伝えしています。企業価値を最大化するため、企業側が陥りがちな罠についてもお聞かせください。
柴田:最も陥りがちなのが「ガバナンスごっこ」の罠です。コーポレートガバナンス・コードの人数合わせのために社長の友人で固めたり、「黙っていてほしい」と考える経営者も実際にいます。また、使い勝手のいい執行の人が入ったという感覚で、一緒に手を動かして作ってくれる人を求めてしまうケースもありますね。
高橋:雇用リスクなく安価にプロにコミットしてもらえると安易に考えてしまう経営者もいます。
柴田:そうですね。しかし社外役員は同質的な経営陣による「集団浅慮」に待ったをかけ、異なる視点から問いを投げかける存在として活用すべきです。経営陣はリスク許容度が高くなりがちですが、社外役員が客観的で冷静な視点を持ち込むことが長期的なブランド価値を守ります。
高橋:法的リスクもあるからこそ、人物に絶対の信頼がある人にしか頼めないという背景がありますよね。私も社外取締役や公認会計士のオーダーをいただいた際は、真っ先に柴田さんのサニーキャリアにご相談しています。
柴田:高橋さんからご紹介いただいた会社さんとお繋ぎした方は上手くいくことが多いです。高橋さんは面接にも同席してくださいますし、あそこまで企業を深く調べて、かつ言葉にできるエージェントは他にいません。
高橋:私は過去25年間で数多くの面接に同席していますが、柴田さんほど企業や社長のことを調べ尽くして臨む方はいませんよ。趣味まで調べておられますしね。
柴田:会社の面接であっても結局は「人」対「人」なんですよね。この人と働きたいかをお互いに見る場なので、事前の情報として徹底的に調べることは基本だと思っています。ご紹介する方にもそうお伝えしています。
■書籍『社外役員の極意』に込めた「光と影」のメッセージ

高橋:今回のご著書『社外役員の極意』は、中央経済社さんから出版されました。執筆に至った背景を教えてください。
柴田:直接のきっかけは、相談に来られたある女性会計士の方との対話でした。彼女はキャリアアップに意欲的だったのですが、社外役員に内在する「法的責任の重さ」や、就任先で不祥事が起きた際の「キャリアの黒歴史リスク」などを全く知らなかったんです。
高橋:世間では「ワークライフバランスが取れて専門性が生かせる」というポジティブな面ばかりが注目されがちですよね。
柴田:そうなんです。「光」の部分ばかりが先行していますが、実際には株主から訴えられる訴訟リスクや不安定な報酬、任期中の身動きの取りにくさといった「影」の部分が確実に存在します。入ってみるまでわからない人物相関図や、監査法人すら気づけない粉飾リスクもあります。上場準備の途中でポジションがなくなったり、上場会社でも4年で更新されるかわからない不安定さもあります。この本では、あえてそういった「影」の部分を正直にお伝えすることにこだわりました。
高橋:リスクを知らずに飛び込むことの危険性に警鐘を鳴らしたかったと。
柴田:その通りです。その上で、リスクを正しく理解し、それでも覚悟を持って挑戦する「お飾りではなく、機能する社外役員」を日本社会に増やしたい。日本のコーポレートガバナンスを本当の意味で強化するために、一人ひとりが実質的な役割を果たせる人材が増えることこそが不可欠だと信じて、この本を書きました。
■「社外役員の極意」の読者へメッセージ
高橋:本日は貴重なリアルなお話をありがとうございました。最後に、読者の皆様へメッセージをお願いします。
柴田:最近は未経験から常勤監査役を目指す女性も増えていますが、中には働きすぎて適応障害になってしまう方もいます。社外役員への道は、決して平坦ではありません。孤独があり、重い責任があります。しかし、企業の成長を支え、ガバナンスを強化し、ひいては社会に貢献できる素晴らしいキャリアです。ぜひ本書で社外役員の「光と影」を知り、覚悟を持って挑戦していただきたいです。
高橋:日本のコーポレートガバナンス強化のために、柴田さんのような実質的な役割を果たせる方が増えることを願っています。本日は誠にありがとうございました。

編集後期:高橋啓の視点
今回の対談を通じ、社外役員とは単なる「キャリアの積み上げ」ではなく、経営への敬意と規律の間で戦う「プロの覚悟」の結晶だと確信しました。
柴田さんが説く「光と影」は、形式的なガバナンスへの警鐘です。経営には、耳の痛い提言をも受け入れる覚悟が問われています。
私たちが適材適所のマッチングにこだわるのは、スキル以上に、共にリスクを負い価値を創造できる「魂の信頼関係」を築くため。真摯なプロフェッショナルこそが、日本企業の屋台骨を支えると信じています。