地方企業の課題を逆手に。髙梨製作所社長【髙梨健一】が語る事業承継

地方の人口減少や人材不足といった深刻な課題に対し、現場のリアルな視点と独自の哲学で立ち向かう山形県の株式会社髙梨製作所。プロ人材機構 代表取締役社長の高橋啓が、息子たちへの事業承継を進めている3代目代表取締役社長・髙梨健一氏にインタビュー、地方経営のリアルを語っていただきました。


髙梨健一(株式会社髙梨製作所 3代目代表取締役社長) 山形県でプラスチック精密成形・金型製作を手掛ける企業の経営者。地方の人口減少を見据え、いち早くDXを推進。生産設備のIoT化により、自動指示・管理体制を構築し、現場オペレーターが迷わず作業できる環境を整えている。さらに、自社開発アプリとRPAを組み合わせて業務効率化を推進。負担の少ない作業環境を実現することで、シニア雇用の拡大を実現している。現在は子息2名と共に、事業承継と持続可能な企業変革を力強く牽引する。


地方の危機感は「強み」に変わる。伸びしろだらけの経営改革

(左)プロ人材機構代表取締役社長高橋啓(右)株式会社髙梨製作所代表取締役社長髙梨健一氏

高橋啓(以下、高橋):2026年5月19日に行われた「地方企業の未来を拓くプロ経営者への道」セミナーでも登壇いただき、ありがとうございました。

【開催報告】「地方企業の未来を拓くプロ経営者の道〜事業承継のリアル」トーク&交流会

山形県をはじめ、地方における人口減少や人材不足は非常に深刻なテーマです。社長は現場でこの現実とどう向き合っているのでしょうか。

髙梨健一社長(以下、髙梨社長): 山形県では人口減少がかなり進んでいますし、地域の企業や雇用の先行きにも強い危機感を抱いているんですよ。でも、この危機感は強みに変えられる可能性があるんですよ。だからこそ、何を変えて、何を残すのかを考え続けること自体が、経営の重要な役割だと感じています。

例えば、給与計算や勤怠管理、請求書処理などのバックオフィス業務は、直接売上や付加価値を生む訳ではないですよね。なので、私の会社では、このような業務にメスを入れて、DXを駆使し自動化を推進しました。その分、社員には付加価値を生む業務に集中してもらっています。都会の企業では当たり前かもしれませんが、山形県でやるからこそ面白みがあるんですよね。

高橋: 地方だからこそ、DXの取り組みが際立つということですね。

髙梨社長: ええ。地方企業は課題が多いからこそ、他社と違うことをすれば評価されやすい。つまり、地方にはまだまだ伸びしろがあるんですよ。特に小規模な企業ほど、新しいチャレンジがしやすい。「革新的な経営」とは、最初からそれを目指してつくるものではないと思っています。目の前の現実に向き合いながら、一つ一つ手を打っていった結果、あとから振り返ったときに「あれは革新的だったね」と言われるものなんじゃないでしょうか。

「人数」ではなく「工数」で考える。シニア雇用のリアル

高橋: 人手不足対策として、御社はシニア雇用にも非常に積極的ですね。

髙梨社長: よく「若い人が来ない」と言いますが、それは当たり前だと思うんですよ。若い人が来ないなら、これから増えてく高齢層の方たちに生きがいを持って、健康なうちは働いてもらえばいいんじゃないかと思いまして。定年が近い70歳くらいの人は、皆さん結構仕事を探しているんです。先日、シニア限定で求人を出したところ、2日で3人応募が来まして。新たに60代後半から70代の方3名を採用しました。生き生きと仕事してますよ。自分の父親も85歳ですけど、今もバリバリ仕事してます。目的があれば、歳を取っても元気に過ごせるんですよね。

高橋: シニアの方々がいきいきと働ける秘訣はどこにあるのでしょうか。

髙梨社長: 人がいないというより、若い人を取ろうとするから人手不足と感じるのではないでしょうか。私は、人を「人数」じゃなくて「工数」で考えています。仕事の工数をシニア層に担ってもらうことで、若手の工数が空く。そこで若手はより先進的な業務に挑戦して、それが標準化になったら現場に落とし込んでいく。次男がスポットバイト用のアプリに似たオリジナルアプリを開発して、工数を可視化しています。こういう取り組みで、シニアが活躍できる世の中なればいいと思います。

もちろん、シニアでも取り組みやすいシンプルな業務に落とし込んでいくんですけど、将来はロボットの活用も構想に入れています。組織が大きくなってくるとまとまらなくなるので、少数精鋭が効率がいいと考えるためです。

身内だから継ぐわけではない。「第三者承継」という誠実な判断

高橋: 現在、ご子息(長男・次男)への事業承継を進められていますが、親族内承継についてはどのようにお考えですか。

髙梨社長: 私自身は、身内から事業承継をした立場ですが、身内の会社だから継ぐ、という考え方だけでは会社は守れないと思っています。たとえ家族であっても、社長としての適性がないと判断すれば、無理して継がせる必要はありませんね。

そのような状況で子供に継がせてしまうと、不幸になるのは社員ですから。次期社長がエゴを出して経営すると、社員に嫌われて上手くいきません。経営者の選定は、まず本人が経営者としての生活に魅力を感じるかどうか。その上で経営者としてのリスクに耐えうる能力とハートを持っているかどうかです。

高橋: 能力とハートがなければ、継がせないという選択肢もあると。

髙梨社長: 事業承継においては、無理に家族内で繋いでいくのではなくて、第三者承継という選択肢を持つことも、会社にとっては誠実な判断ではないでしょうか。政府では、第三者承継という形を推し進めようとはしていると思います。ただ銀行は、リスクの商売ですから、どこまでリスクをカバーするかが最大の課題です。だから、社長交代時に個人保証を外すというのを嫌がります。そこが一番難しいところですよね。弊社は個人保証は取られていませんが(笑)。

失敗から這い上がる力。「アトツギ甲子園」で見せた兄弟の絆

高橋: 事業承継のプロセスにおいて、ご子息たちの存在感が増していますね。特に次男の直人さんは、中小企業庁主催の「アトツギ甲子園」で『SoZo Station』という低圧成形のプラットフォームを提案し、見事〈イノベーション・環境局長賞〉を受賞されました。この挑戦を、社長はどのように見守っていらっしゃいましたか。

髙梨社長: 実は、前年に長男が地元の大学と連携したGXプロジェクトの実績を基に「アトツギ甲子園」に挑んだのですが、書類選考で落ちてしまったんです。でも、そこから生まれた『射出成形と金型製造で生み出す新たなものづくり』というテーマが、次男に繋がったんです。次男は「兄の仇を取る」という想いもあったようですね。

高橋: お兄さんの悔しい経験が、弟さんのイノベーションの原動力になり、見事にリベンジを果たしたのですね。

髙梨社長: そうですね。育成というのは決して甘やかすことではなく、失敗を経験させ、自ら這い上がる力をつけさせることだと思っています。長男の失敗を次への糧とするサイクルが彼らの中で生まれていることは、頼もしいですね。まぁ、長男を東京の私立大学へ進学させるために結構かかりましたからね。その投資分はしっかり回収させてもらおうと思っています(笑)。

数字だけを追うな。現場感覚と経営者の「孤独と決断」

高橋: 社長ご自身が、日々の経営で最も大切にしている哲学は何でしょうか。

髙梨社長: 経営者は数字だけを追うのではなく、自ら現場に立ち、機械の異音や匂いといった五感で異常を察知する「現場感覚」を養うべきです。五感は、人間とってものすごい経験値となるんです。私は入社当時、工場に寝泊まりするような生活を送っていたので、今でも、工場に入った瞬間に効率よく動いているか、コンディションがわかります。やっぱり経験に勝るものはないんですよ。

数字だけを追い求めていくと従業員に嫌われます。まずは自分が現場に入り、一年なら一年、手を汚して、汗をかくことによって、従業員の心に染まることですよね。その姿を見せて信頼を得ることが重要です。数字だけで判断する経営者は従業員から信頼されません。

高橋: 社員への向き合い方で、意識されていることはありますか。

髙梨社長: 「正範語録(せいはんごろく)」をご存じですか。その中に、「一生懸命だと知恵が出る。中途半端だと愚痴が出る。いい加減だと言い訳ばかり」という文言があるんです。社員には、常に自問自答した上で、これを逆に考えるように伝えています。知恵が出ないのはまだ真剣になっていないからじゃないのかと、愚痴が出るのは中途半端になっているんじゃないのかと、言い訳をするのはいい加減になっているんじゃないのかと。これを自分に問いかけて欲しいと伝えていますし、私自身にも常に問いかけています。

経営者に一番求められるのは、「決断する」ことです。でも、自分の中ではある程度答えは決まっていても、悩んじゃうんですよね。誰かに背中を押してもらいたいと思うこともあります。決断するタイミングは本当に何気ない理由でいいと思います。私の例で言えば、駐車場の雑草の根っこが綺麗に取れたら実行しよう、とか、車の運転中に2つ先の信号まで引っかからなければ実行しよう、とか。そうやって、自分で理由を見つけて背中を押すようにしています。

経営者は孤独です。孤独の中でも、自分の答えをどうポジティブに捉えなおすか。これは誰かに代わって背負ってもらえるものではなくて、自分自身で引き受けるしかないですね。

引き際の美学とネクストキャリア

高橋: 最後に、現在60歳を迎えられた社長ご自身の「引き際」や、承継後の未来について教えてください。

髙梨社長: 経営者の引退は、自らのモチベーションが低下し、感性が世の中の変化と合わなくなった時が潮時だと定義しています。特に、後継者である息子たちが自分以上に高い意欲を示した時が、完全に退くべきタイミングでしょう。

一応、70歳を一つの目安と考えていますが、今の流れが非常に速いのでわからないですね。そうなった時には、私は3歩引いて、ワーカーとして陰ながら応援する存在になりたいですね。別に暗くなる必要はないと思います。うちの強みは、世の中のネガティブなことを逆手にとって、飛躍するチャンスをつかむことですから。


【編集後記:高橋啓の視点】

飾らない言葉の裏にあるのは、地方で生き残るための冷徹なまでの現状分析と、社員や家族への深い愛情でした。数字だけでなく、工場の「匂い」や「音」を感じ取る現場感覚。そして、シニアを貴重な戦力として活かす逆転の発想、さらに失敗を恐れず挑戦を促す企業風土。髙梨社長の語る「孤独な決断」の積み重ねこそが、地方企業の未来を拓く確かな道しるべとなっていると感じました。

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