
建築士としてキャリアをスタートし、やがて「服を建築的に捉える」という発想で新たな表現の世界に挑んだ花園園恵さん。「人を包む空間は、建築も服も同じ」──そんな思考の転換が、彼女の第二のキャリアの扉を開きました。
服飾デザイナー、空間クリエイターとして、百貨店での展示販売、建築士仲間とのコラボイベント、接客、商品開発…と、唯一無二のキャリアを歩む花園さんと対談しました。
目次
1「建築も服も、人が居る“空間”なんです」
2「服の設計」から生まれた、環境配慮という思想
3「モデル体験」が人生を変えた
4「接客こそ天職」──服が人を変える瞬間に立ち会いたい
5キャリアのピボット──「建築の軸足は変えずに、表現を変えただけ」
6「シニア」というラベルを、私は使わない
7「小さな経済圏」を、みんなでつくっていく
おわりに
1「建築も服も、人が居る“空間”なんです」
高橋:一級建築士からファッションデザイナーへの転身。多くの方のキャリアを目にしていますが非常に珍しいパターンに感じます。
花園:確かにそうかもしれませんね。
でも、実は、私にとって服も建築も、“人を包む空間”という意味では同じなんです。建築は“人を包む空間”であり、服は“人を包む最小の空間”。だから、服も居場所であり、建築的なアプローチでデザインしています。
高橋:なるほど。まさに、空間設計の延長線上に“服”があると。とはいえ、相当な覚悟があったと思いますが。
花園:最初は、カバンなどのプロダクトから始めたんですが、それも“持ち運ぶ建築”という考え方だったんです。図面をCADで描くように、洋服の型紙も作れた。立体裁断じゃなくて、平面で作って、着たら立体になる服。建築と同じです。建築士がつくる服というテーマがバイヤーさんの興味をひきました。

2「服の設計」から生まれた、環境配慮という思想
横浜:花園さんの服作りは“端材を出さない”設計にこだわっていると伺いました。
花園:そうなんです。
建築でも端材や廃材が出ないように設計しますよね?服も同じで、R(曲線)を極力使わず、長方形を基本にして、端材が出ないデザインにしています。しかも、生地はジャージー。切ってもほつれず、普通に洗えて乾きやすい。私でもつくれる!と思って(笑)
高橋:機能性とサステナビリティ、両方が備わっていますね。
花園:ありがとうございます。“居心地の良さ”も大事にしています。年齢やトレンドではなく、“その人にフィットする空間”を作りたい。つまり、着る人の内面や生活に寄り添う服なんです。
3「モデル体験」が人生を変えた
高橋:どうしても今のキャリアに至った流れが知りたいです。何がキャリアの転機になったのですか?
花園:ちょうど建築の仕事が途切れて、落ち込んでいた時期に、偶然ファッションショーの一般公募を見つけたのです。意気消沈していたせいか、それがキラキラした別世界に見えたんでしょうね。
一か八かチャレンジしてみよう!と応募したら、幸運にも採用されて。52歳の時でした。そこで、コシノヒロコさんの服を着て初めてランウェイを歩いたんです。
高橋・横浜:すごい経験ですね…!
花園:リハーサルで、コシノさんが服の着こなしを指導してくださる姿を見ていて、『私、作る側に行きたい』って思ったんです。そこから服作りを始めて、SNSにアップしたら“欲しい”って声をいただいて。あ、自分の服が“商品”になるんだって。そこからは早かったです。

4「接客こそ天職」──服が人を変える瞬間に立ち会いたい
横浜:百貨店への出店もすごい展開ですね。
花園:最初にうめだ阪急にポートフォリオを送りました。運よくバイヤーの方が興味を持ってくださって出展が決まったんです。そこからは継続的に阪急で出展するようになって、建築士仲間を巻き込んだイベント『建築士がつくる建築ではないもの展』も開催しました。
横浜:展示だけでなく、接客にも全力だとか。
花園:接客、もう天職ですね(笑)。
お客様が試着して『これ似合う!』と笑顔になる瞬間を見るのが好きで。朝から晩までずっと店頭に立ってます。自分が居ない間にお客様が来られたら…と思うと、トイレもダッシュです(笑)。
高橋:そんなことありますか!それほど“リアルな場”を大事にされているんですね。
花園:そうなんです。“誰かに褒められた”って報告してくれるお客様もいて、それが嬉しくて。接客はただの販売じゃなくて、その人にフィットする空間(=服)を一緒に探すこと。まさに建築と同じです。
5キャリアのピボット──「建築の軸足は変えずに、表現を変えただけ」
高橋:建築士から服飾デザイナーへのキャリアチェンジは、大きな一歩だったと思います。でも、だんだん話を聞いてみると、これはキャリアチェンジではないですね。ピボットですね。軸を変えずに世の中との接点を変えていく。まさに私たちが日々お会いしているプロとして活躍される方に多いパターンです。
花園:“ピボット”って言葉、いいですよね。私もまさにそれ。建築=人を包む空間っていう軸足は変えずに、アウトプットを変えただけ。服という表現にシフトしたんです。
横浜:決してゼロからのキャリアチェンジじゃないんですね。
花園:そうなんです。素材の知識、設計力、図面…全部建築の経験が生きてます。服作りでも、図面を引くように型紙を作るし、素材は建築資材から着想を得る。だから、今のキャリアは“今までの積み重ね”の上にあります。

6「シニア」というラベルを、私は使わない
高橋:花園さんの活動は、第二のキャリアやミドル世代のロールモデルとしても注目されるべきですね。年齢を重ねてくると居心地の良い場所から出たくない。なかなか好奇心も持ちづらい。
花園:私、何でも自分でやりたくなる傾向が強いです。年齢を重ねると、『シニア』って、ラベルを貼られてしまって。なんだか外にも出づらくなったり、新しいことにもチャレンジする気持ちを失ったり。
50代でも60代でも、自分らしく表現することはできるし、むしろ今だからこそ、できることもあると思ってます。だから、シニアってラベルを自分で貼らずに、好きな服を着て外へ外へ出かけると良いと思ってます。
横浜:実際にお客様も、幅広い世代が来られているとか。
花園:20代から80代まで。特に高齢の女性が、新しい服を着てイキイキされる姿を見ると、“まだまだこれから”って思います。だから、年齢関係なく、居心地のいい服を作りたいんです。服はその人らしさを引き出す“最小の建築”なんですよ。
7「小さな経済圏」を、みんなでつくっていく
高橋:商品の生産も、個人の職人さんと取り組んでいるそうですね。
花園:はい。量産はしていません。サンプルは自分で作って、あとは信頼している個人の方々にお願いしています。“小さな経済圏”を作っている感覚ですね。一点モノのような服を作って、直接お客様に届けて、喜んでもらって…その循環がたまらなく楽しいです。
高橋:お客様との関係性も、ファンとの経済圏のような…。
花園:はい。何度も来てくださる方も多くて、“またあなたに似合いそうな服が出来ましたよ”って言えるのが嬉しい。建築は一対一のお仕事が多かったけど、今はもっと広く、もっとダイレクトに、人とつながっている実感があります。
おわりに
「健康でさえいれば、ずっとこの仕事を続けたい」──そう話す花園さんの目は、本当にキラキラしていました。“キラキラした時代”を知るバブル世代が、今もう一度、自分らしいキャリアでキラキラし始める。それは、下の世代にとっても、一つの「ロールモデル」となると私たちは思っています。
ついつい保守的になりがちで好奇心を失いがちです。
下の世代だけではなく、同世代の方にとっても、キラキラした時代を知る方が、年齢にとらわれず、自分らしいキラキラした空間を築き上げていく後ろ姿は、多くの人の励みになると私たちは考えています。
今後も、そのような方の活躍を私たちは紹介していきたいと考えます。

【出展情報】
2026年4月16日~22日 渋谷ヒカリエ3F出展予定!
▽詳細は花園園恵さんの公式SNS・Instagramをご確認ください。