大手企業の50代は「選択肢」を増やすための棚卸しを【亀卦川篤氏インタビュー】

シニアロールモデルインタビュー亀卦川篤氏by高橋啓

「人生100年時代」といわれ、定年の延長やセカンドキャリアの構築が叫ばれる昨今。特に大手企業でキャリアを重ねてきた50代・ミドルシニア世代からは、「60歳を前に自分のやりたいことをやるには、早期退職して独立すべきか」「長年勤めた会社を離れて、自分にどんな価値があるのか」といった悩みの声が数多く寄せられます。

しかし、本当に「即・退職」や「起業」だけが正解なのでしょうか?

今回は、凸版印刷(現 TOPPAN)で数々の新規事業やWebサービスを立ち上げ、50代で副業を開始・早期退職後、ベンチャーの参謀を経て「やる気スイッチグループ」の執行役員として事業を牽引された亀卦川篤(きけがわ あつし)氏をお招きしました。まさにインタビュー当日に自らの法人「合同会社クロス・アンブレラ」を設立し、新たな冒険へと一歩を踏み出した亀卦川氏。プロ人材機構代表の高橋啓が、大手に勤めながら「キャリアの選択肢」を作り出し、豊かで自由なセカンドライフを手に入れるための具体的なヒントを伺いました。


亀卦川 篤(きけがわ あつし)氏
合同会社クロス・アンブレラ 代表社員。1991年凸版印刷入社。1994年の日本初の企業Webサイト立ち上げや「日産・羅針盤」の参画をはじめ、数々の新規事業を牽引。電子チラシサービス「Shufoo!(シュフー)」事業では売上を2億円から70億円規模、1,600万人を超えるユーザー基盤へと成長させた。2021年の副業解禁を機に社外での活動を開始し、2022年に早期退職。スタートアップの役員を経て、やる気スイッチグループ執行役員としてBtoB開拓やFC物件取得の仕組み構築に貢献。2026年9月、合同会社クロス・アンブレラを設立し代表に就任。

【インタビュアー】高橋 啓(たかはし あきら) 株式会社プロ人材機構 代表取締役社長 高度専門人材や顧問のマッチングを通じて、企業の経営課題解決とシニア・ミドル層のセカンドキャリア創出を牽引。「知見の流動化で日本企業を活性化する」を実践している。



大手企業を辞めなくていい。目指すべきは「自分で選べる状態」をつくること

インタビュー当日は、やる気スイッチグループの退職日。花束を携えて登場した亀卦川篤氏
インタビュー当日は、やる気スイッチグループの退職日。花束を携えて登場。

高橋 啓(以下、高橋): 亀卦川さん、本日はよろしくお願いします。亀卦川さんは本日がまさに「やる気スイッチグループ」での最終出社日であり、明日はご自身の新会社「合同会社クロス・アンブレラ」を立ち上げる運命的な日とお聞きしました。まずはおめでとうございます!

亀卦川 篤 氏(以下、亀卦川): 高橋さん、ありがとうございます。実は私も起業するのは今回が人生で初めてなんです。定年退職を待つのではなく、「60歳を前に、自分のやりたいことを自分で選択してやろう」と思い立ち、新しい冒険をスタートさせるところです。

高橋: 大手企業で長年活躍されたシニア世代の中には、「会社に残るか、思い切って辞めて独立するか」という二者択一で苦しんでいる方が非常に多くいらっしゃいます。亀卦川さんはこの葛藤にどう向き合われてきたのでしょうか?

亀卦川: 私が伝えたい最も重要なメッセージは、「大企業を無理に今すぐ辞める必要はまったくない」ということです。大事なのは、「会社に残るしか選択肢がない」という追いつめられた状態をなくし、「いつでも自分の意思でキャリアを選択できる状態をつくっておくこと」なんです。

【キャリアの理想的な移行ステップ】

50台キャリアの棚卸しのロードマップ

高橋: 「会社に残る」のも、「外に出る」のも、自分で選べる権利を持っているかどうかですね。

亀卦川: そうです。選択肢がない人は、どうしても会社に対して愚痴や文句が多くなってしまいます。しかし、自分の得意なことや好きなことの棚卸しをして、副業や越境学習、勉強などを通して「外でも自分は通用する」「こういう関わり方もある」と知っておけば、会社に残り続けるとしても気持ちに大きな余裕が生まれます。

凸版印刷で培った「ダイナミックな新規事業」と50代での副業・早期退職の決断

高橋: 亀卦川さんご自身、凸版印刷時代にはまさに「異端児」と呼ばれるほど、ダイナミックな新規事業を次々と成功させてこられましたよね。

亀卦川: 運よく、本当に色々なチャレンジをさせてもらいました。1990年代半ばのインターネット黎明期にはNTTさんへの新規事業出資や日産自動車さんのWebサイト立ち上げ、その後も商社やメーカーと組んでブロードバンド放送や博報堂と他2社とCRMエージェンシーの立ち上げなど、危険で未知な領域に挑む「カナリア部隊」のような役割ばかりやっていました(笑)。

中でも大きかったのは、30代後半から手掛けた電子チラシサービス「Shufoo!」の改革です。当初BtoBで売上2億円程度だった事業を、主婦層(BtoC)へターゲットを大胆に切り替え、10年かけて売上70億円以上、月間アクティブユーザー1,600万人超の巨大メディアに育て上げました。カード会社や電力・ガス会社のアプリ内にコンテンツを組み込む提携戦略などを進め、累計1,600万人規模のネットワークを作れたのは、大企業ならではの資金力とスケール感があったからこそで、今でも深く感謝しています。

高橋: それほど会社を愛し、大きな実績を上げておられた中で、なぜ50代で早期退職という決断に至ったのでしょうか?

亀卦川: 会社が大好きだったからこそ、経営方針の変化や組織のポートフォリオ転換が進む中で、「自分の熱量と会社の方向性が少しずつズレてきた」と感じたのがきっかけです。

ちょうど2021年に会社で副業が解禁になり、すぐに人事労政部門の役員に「僕みたいな人間がやってもいいか?」と相談しました。そこから実際に社外の副業を1年間やってみたんです。地方企業の支援などを経験する中で、「会社の看板がなくても、自分の知見を求めてくれる人がいる」「独立してもなんとか食べていけるな」というリアルな手応え(選択肢)を得ることができた。だからこそ、未練なく笑顔で早期退職の決断ができました。

ベンチャーの参謀、そして「やる気スイッチグループ」での仕組みづくり

亀卦川篤氏インタビュー

高橋: 早期退職後は、スタートアップの役員を経て、大手教育グループである「やる気スイッチグループ」の執行役員に就任されました。異業種への飛び込みでしたが、どのようなお仕事をされたのですか?

亀卦川: やる気スイッチグループには約3年4ヶ月在籍しました。元々はマーケティングやガバナンス強化、戦略支援でお声がけをいただいたのですが、途中からフランチャイズ(FC)開発や不動産物件開発、企業アライアンスなどのBtoB領域の統括を任されました。

店舗開発はまったくの素人でしたが、ここでも「仕組みづくり」に注力しました。例えば、良い店舗物件の獲得はどの業界も激しい競争になります。そこで私どもが主導して、異業種も含めた「物件情報の交流会」を立ち上げました。

高橋: 「自社が主導して場を開くことで、ナンバーワンのポジションを取り、真っ先に好物件の情報が集まる仕組み」を作られたのですね!

亀卦川: その通りです。これは以前の職場で学んだ「ナンバーワン戦略」です。業界のトップにならなくてもいいのですが、「〇〇の件なら、まず一番最初にあの会社に聞いてみよう」と言われる位置を取ることが極めて重要です。一番最初に声をかけてもらえるポジションを作れば、無駄な出張費や時間をかけずに良質な情報が勝手に集まってくるようになります。

50代からのキャリアに必要な武器は「マネジメント」ではなく「課題の言語化と整理力」

高橋: 大企業からベンチャーや異業種に飛び出す際、「大企業のやり方が通用しない」「アンラーニング(学習棄却)が必要だ」という話をよく聞きます。亀卦川さんはどうお感じですか?

亀卦川: 正直に言うと、無理に過去の経験を全部捨てるような極端なアンラーニングは必要ありません。ただ、「大企業の論理や自慢話をそのまま持ち込まない」ということは鉄則です。

特にベンチャーや中小企業に入っていく際、支援する側に求められるのは単なる「過去の成功体験の押し付け」ではありません。

私は、「マネジメントが得意です」というシニアを安易に信用しません。マネジメントのやり方なんて、10,000人の会社と5人の会社では環境によってまったく変わるからです。5人の現場で大企業の管理手法を押し付けたら「あなたも現場で手を動かしてくださいよ」と反発されて終わります。

高橋: では、50代以上のプロ人材が本当に社外で発揮すべき「本当の武器」とは何なのでしょうか?

亀卦川: それは「現場で起きている問題を整理し、真の『課題』として言語化してあげる力」です。

  • 問題(対症療法): 現場で発生している表面的なトラブル(絆創膏を貼る対応)。
  • 課題(構造化): 「なぜその問題が起きているのか」を観察し、3つほどの根本原因にまとめ上げ、みんなが共通言語で動けるシナリオ(登り方)をつくること。

スタートアップや中小企業の社長は熱量に溢れていますが、売上が2億、5億、20億と伸びていく過程で、熱量だけでは突破できない「壁」にぶつかります。その時に、社長の頭の中にある構想を言語化し、現場の誰もが実行できる『仕組み』へと落とし込んであげるんです。この整理力とシナリオメイクこそが、私たちが提供できる最大の価値です。

「やりたいこと」で生きていくための「セカンドライフ」のつくりかた

亀卦川篤氏インタビュー

高橋: 最後に、これからセカンドキャリアやセカンドライフを模索し、「自分には何ができるのだろう」と足踏みしているミドル・シニア世代に向けてメッセージをお願いします。

亀卦川: これからの時代は、「仕事(ジョブ)」単体でキャリアを考えるというよりも、「セカンドライフ(人生全体の選択肢)」として捉えることが大切だと思います。

「やりたいこと」があるなら、今すぐ小さな学びや発信を始めてみてください。noteやSNSなどで自分の経験を振り返って言語化してみるのもいいですし、LinkedInなどで社外と繋がってみるのもいい。オフタイムを使って、異業種のイベントやベンチャーの現場に顔を出してみるのも素晴らしい「越境学習」になります。

社外に出て自分の思考や経験をオープンに棚卸ししてみると、「自分の当たり前が、外の誰かにとっては喉から手が出るほど欲しい知見だった」ということに必ず気づきます。

【明日から始められる小さな1歩】

  • 自分の過去の「失敗と克服のプロセス」を書き出してSNSなどに発信してみる
  • 興味のある社外セミナーや越境コミュニティに「参加者」として1回顔を出してみる
  • 専門性だけに固執せず、「自分の経験が誰のどんな課題を整理できるか」を考えてみる

亀卦川: 自分の「選択肢」が増えていく過程は、本当に楽しいものです。学んでいる間、挑戦している間は、将来への不安も吹き飛びます。

無理に会社を辞める必要はありません。まずは今の仕事を大切にしながら、社外に目を向け、自分のやりたいことの芽を育てていく。いつでも別の道を選べる「自由なパスポート」を胸ポケットに忍ばせておくことこそが、50代からの人生を劇的に面白くする最強の「やる気スイッチ」になると信じています。

高橋: 会社に縛られず、自ら選択肢を作って軽やかに進む亀卦川さんの姿に、多くのシニア・ミドル世代が勇気をもらったはずです。新会社での新たなご活躍も心より応援しております。本日は本当にありがとうございました!

亀卦川: ありがとうございました!

プロ人材機構代表取締役社長高橋啓と合同会社クロス・アンブレラ代表亀卦川篤氏

■ 編集後記【高橋 啓の視点】

今回の亀卦川氏との対談を通じて、深く共感したのは「セカンドキャリアとは、会社を辞める・辞めないの議論ではなく、自らの人生の『選択肢』をいかに増やすかである」という点です。

大手企業で培った高い課題整理力、現場を巻き込む泥臭いシナリオメイクの技術は、成長に悩む中小企業やスタートアップにとって唯一無二の財産となります。それを「自社の中だけ」や「過去の肩書」として眠らせてしまうのは、あまりにももったいないことです。

「いきなり独立する勇気はないけれど、社外で自分の力を試してみたい」「自分の経験を活かして、次のキャリアの選択肢を作りたい」とお考えのプロ人材の皆様の登録、そして「現場の課題を整理し、仕組み化できる優秀な外部人材の力を借りたい」という企業様からのご相談を、プロ人材機構では心よりお待ちしております。


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