【トップインタビュー】
「人材紹介」の枠を超え、「社会システム」の変革へ。
プロ人材機構が「インパクトスタートアップ」として挑む、経験資産の社会実装。
株式会社プロ人材機構 代表取締役社長 高橋 啓
「ユニコーン」を目指すだけがスタートアップの正解ではない。今、社会課題の解決と持続可能な経済成長の両立を目指す「インパクトスタートアップ」が、新しい資本主義の形として注目を集めている。 2024年、この潮流に合流したのが、シニア・経営層のヘッドハンティングを手掛ける私達プロ人材機構です。なぜ、ベテランのヘッドハンター率いる企業が、今「インパクトスタートアップ」を名乗るのか。インタビュー形式でお答えいたします。
経営層・プロフェッショナル人材の流動化支援を行う株式会社プロ人材機構(本社:東京都港区)代表取締役社長:高橋 啓、以下「当社」は、2025年12月18日付で、社会課題の解決と持続可能な経済成長の両立を目指す「一般社団法人インパクトスタートアップ協会(以下、ISA)」に正会員として加盟いたしました
――なぜ今、あえて「インパクトスタートアップ」への加盟を選んだのでしょうか?
高橋: 私たちが取り組んでいる事業が、単なる「雇用のマッチング」ではなく、「日本社会のOS(基本ソフト)の書き換え」だと定義し直したからです。これまで、ビジネスの成功は「売上」や「時価総額」だけで語られがちでした。しかし、私たちが直面している労働人口の減少は、一企業の利益追求だけでは解決できないレベルに達しています。 働きたいのに働けないシニアが溢れ、一方で人手不足に喘ぐ企業が倒産していく。この「ねじれ」は、既存の労働市場のバグです 。
インパクトスタートアップ協会(ISA)は、社会課題の解決を「コスト」ではなく「成長の源泉」と捉える企業の集まりです。私たちも、シニアの経験を循環させることが、結果として日本経済を最も強くするという「社会的インパクト」と「経済的リターン」の完全な同期を目指しています。 「きれいごと」ではなく、ビジネスの力で社会構造を変える。その覚悟を示すために、この場所(ISA)を選びました 。
――御社が創出する「インパクト」とは、具体的にどのようなものでしょうか?
高橋: 私たちが定義するインパクトは、「経験資産(Experience Capital)の社会実装量」です 。
一般的にシニア活用というと「福祉」や「救済」の文脈で語られがちですが、それは違います。私たちが目指すのは、「プラチナ社会(高齢者が活躍する社会)」の実装です。 例えば、組織崩壊の危機にあるスタートアップに、修羅場をくぐり抜けた60代の元役員が入る。すると、若手起業家の情熱に「大人の知恵」が加わり、事業の生存率が劇的に上がります。また、地方の中小企業にプロ人材が入ることで、廃業寸前だった技術が次世代に継承される。
私たちは、単に「何人転職させたか」ではなく、「そのマッチングによって、どれだけの企業が救われ、どれだけの事業が成長軌道に乗ったか」というインパクトを重視しています 。経験は、個人のものではなく、社会全体で使い倒すべき「公共財(コモンズ)」なのです 。
――「インパクト」を可視化・計測する取り組み(ロジックモデル)についてはどうお考えですか?
高橋: 非常に重要視しています。これまで人材業界は「成約人数」や「人材紹介手数料」をKPIにしてきましたが、私たちはその先の指標を見ています。現在、策定を進めているのは「企業の変革貢献度」と「シニアの自己効力感」の指標化です 。「プロ人材機構が紹介した人材が入った企業は、成長スピードが速い」「企業や紹介した人材の満足度が高い」といったエビデンスを積み上げること。そして、働くシニア自身が「社会に必要とされている」という誇り(ウェルビーイング)を感じられているか 。
これらを定量的に可視化することで、「シニア採用はリスク」という世の中のバイアスを、「シニア採用は最強の成長戦略」という事実に変えていきます。感覚値ではなく、データとロジックで社会の認識を変えていくことこそ、インパクトスタートアップの使命だと考えています。
――他のスタートアップや、自治体との連携(エコシステム)も加速しそうですね。
高橋: その通りです。ISAへの加盟は、同じ志を持つ仲間との「共創」の始まりです。特に「若手起業家 × 経験豊富なシニア」のクロスオーバーには大きな可能性があります 。社会課題解決に挑む若いスタートアップに対し、私たちの抱える「プロ経営者」たちがメンターや社外役員として参画する。いわば、スタートアップのエコシステム自体を、経験資産でブーストさせる役割です。
また、地方自治体との連携も強化します 。都市部に眠る経験資産を地方へ還流させる仕組みは、一社単独では作れません。行政や地域のプレイヤーと連携し、「日本中どこにいても、プロの経験を借りてビジネスができる」というインフラを整えていきます。
――最後に、プロ人材機構が目指す「未来の景色」を教えてください。
高橋: 日本は世界で最初に「超高齢化社会」を迎える課題先進国です。しかし、見方を変えれば、「高齢化社会における解決策(ソリューション)」を世界で最初に提示できる国でもあります。
「年齢の壁」なんて存在しない。経験豊かな大人が、若者を支え、地域を支え、経済を回している。そんな活気ある日本の姿を、ここから作りたい。 私たちが成功すれば、それはそのまま世界のモデルケースになります。
プロ人材機構は、ただの人材会社ではありません。「経験が巡れば、未来はもっと良くなる」。その仮説を実証し、社会の当たり前に変えていくための「機構」として、全力で挑戦を続けます。
【用語解説:インパクトスタートアップとは】 社会課題の解決と持続可能な経済成長の両立を目指す企業体。従来のNPOやCSRとは異なり、ビジネスの手法を用いて社会的インパクトを創出し、その成果を測定・可視化することを特徴とする。政府の「新しい資本主義」実現会議でも重要な役割を担うと位置づけられている。
【プロフィール】 高橋 啓(たかはし・あきら) 株式会社プロ人材機構 代表取締役社長
人材業界20年以上のキャリアを持つ経営層を対象にしたヘッドハンター。累計3万人以上の面談実績から「経験資産の価値」を確信し、2024年にプロ人材機構を創業。インパクトスタートアップ協会加盟企業として、人材流動化を通じた社会構造変革(System Change)に取り組む。