寒竹聖一インタビュー「乗り物業界の再生師」が語る事業再生の極意と顧問業の心得

インタビュアー:プロ人材機構 高橋啓

「人生100年時代」と言われる今、定年後のキャリアに迷うシニアは少なくありません。そんな時代に、日本航空の法的再生、バス業界の制度改革、京都丹後鉄道の黒字化と、乗り物業界の修羅場を渡り歩いてきた経営者が、65歳を過ぎた今もエネルギッシュに走り続けています。

次世代ロープウェイベンチャーの顧問、高校生への鉄道経営学の講義、大学の経営審議会委員——肩書きを外れても仕事が途切れないのはなぜか。プロ人材機構代表・高橋啓が、寒竹聖一さんの仕事哲学に迫りました。


寒竹 聖一(かんたけ・せいいち) 1982年日本航空入社。法的再生プロジェクトを内側から支えた後、高速ツアーバス連絡協議会事務局長として業界再編の制度設計を主導。京都丹後鉄道代表取締役社長としてMaaS推進・全国初の「貨客混載列車」導入など地方交通の再生を牽引。WILLER(高速バスや地域交通を手がけるモビリティ企業)取締役としてオンデマンド交通の地方展開に携わり、2024年3月より次世代ロープウェイを開発するZip Infrastructure(Zippar)の顧問に就任。現在は岩倉高校で鉄道経営学の特別講義、福知山公立大学経営審議会委員も務める。


第一章:事業再生においての仕事哲学

■「再生」とは、嫌われることから始まる仕事である

高橋啓(以下、高橋): 寒竹さんのご経歴を拝見すると、JAL、バス業界、京都丹後鉄道と、常に「再生」の現場にいらっしゃいます。そもそも事業再生とは、どんな仕事なのでしょうか。

寒竹聖一(以下、寒竹): 一言で言うと、「今までのやり方じゃダメ」というダメ出しを最初にしなければならない仕事です。だから当然、嫌われます。一生懸命やってきた人たちに「それは違う」と言うわけですから、「口うるさい」とか「知りもしないで」となる。

JALの法的再生のときも、JAL側からも稲盛さんのチームからも「お前は何をやっているんだ」と言われました。どちらかに加担するのではなく、「どうあるべきか」という観点だけで動いていたからです。そこで再現性のある手法を身につけられたとは思っていますが、当時はとにかく両方から嫌われっぱなしでした(笑)。

高橋: それでも続けられたのは、なぜですか?

寒竹: 仕事のポリシーとして、「人を見て仕事をするのではなく、大義を見て仕事をする」と決めているからです。大義というのは「あるべき姿と、今やるべきこと」。そこさえブレなければ、誰に何を言われてもゴールは動かない。

人のために仕事をするとゴールがぶれる可能性がある。大義に向かって自分が走っていく——再生って結局そういうことだと思います。タフではあるけれど、結果が見えるのでやりがいがある。

高橋: ストレスはすごそうですね。

寒竹: 再生はね、ストレスを抱えるんじゃなくて、周りの人にストレスを与えるのが仕事なんです(笑)。みんな今までと違うやり方にウロウロしてストレスを感じる。そこはもう「そういうものだ」と割り切って進む感じです。

■密室を作らない。オープンな議論が組織を動かす

高橋: 再生の現場では、具体的にどう議論を進めるのですか?

寒竹: 意思決定はオープンにします。幹部会と称して部長クラスを全員集めて議論し、最終的な方向性はこちらが持ちつつ、やり方はみんなで考える。登山で言うなら、頂上(ゴール)は決まっていて、アタックルートはみんなで議論する感じです。

ゴールが「再生・再建」という話なら、それ自体に反対する人はいない。問題は旧体制派と改革派が、それぞれの立場から必死に主張してくることです。でも、どちらも立場からすれば正解かもしれない。だからこそオープンにしないと、最適解が見えてこない。

「その意見、みんなの前で言えますか?」と問い続けることで、本当に筋の通った意見だけが残っていく。これは事業承継の現場でも同じだと思います。先代への遠慮、後継者への反発——ゴールを高いところに置いて、オープンに議論するだけで、驚くほど組織が動き始めます。

■制度の壁に当たったら、制度ごと変えに行く

高橋: バス業界や京都丹後鉄道での再生では、法律や制度そのものが壁になることもあったと思います。

寒竹: その場合は、制度ごと変えに行きます。バス業界では、AとBという二つの法律の下で対立していた業界を、Cという新しい法律を作って一本化する、というルールメイキングをしました。まず行政に「こういう解釈でできませんか」と解釈論を交わし、それが限界なら「この法律のままでは業界が死ぬ」というメッセージを持って立法のところにもって行く。官僚が草案を作り、国会に出して通す——という順番を理解してさえいれば、一民間人でも制度は変えられます。

京都丹後鉄道では、旧態依然とした鉄道法を自分の目線で読み直して解釈・運用しました。そして「このままでは地方鉄道が死ぬ」という宿題を国交省に持ち帰えってもらい、黒字化のめどがたって退任した後に、今度は国交省から鉄道法改正の議論に呼ばれることになりました。

現場で火をつけると、自分で走り始める。そうなると今度は国が動く。それがロビー活動の本質だと思っています。


第二章:顧問として、貢献と還元の仕事哲学

ZIppar外観
寒竹聖一氏が顧問を務めるZip Infrastructure株式会社のZippar ©️Zip Infrastructure

■65歳からのベンチャー顧問「おじいちゃん」の役割分担

高橋: 65歳でWILLER(高速バスや地域交通を手がけるモビリティ企業)を退任されてから、現在はどんな活動をされているのですか?

寒竹: 今は「Zippar(ジッパー)」という、自走式ロープウェイを開発するベンチャー企業の顧問をしています。成田空港が一つの移動手段として検討を発表してくれましたが、道路にロープウェイを通すための法律がまだ存在しない。だから私がやることは、紹介や口添えではなく、法整備のロジックを一から組み立てて、行政・立法との議論を設計し、若いチームと一緒に現場へ行くことです。

写真提供/寒竹聖一氏

面白いのは、Zipparには3種類の「おじいちゃん顧問」がいることです(笑)。私が制度・行政周り。もう一人がロビー活動と資金調達。もう一人が技術。この3分野のシニアが揃うことで、若い経営者が迷わず走れる環境ができる。ベンチャー支援の顧問として、これが一つのモデルだと感じています。

高橋: 事業規模も大きく、開発期間も長いベンチャーですよね。

寒竹: だからこそ、紹介だけする顧問では無理なんです。製造業であり開発業ですから。3分野のシニアがそれぞれ深く関わって、初めて成り立つ。もし顧問に興味がある方は、自分がどの分野で「深く」貢献できるかを考えることが大事だと思います。

■「顧問=紹介業」という誤解が、業界の価値を下げている

高橋: 最近は顧問業への関心が高まっていますが、寒竹さんはどう見ていますか?

寒竹: 最近の「顧問業=紹介業」という認識が広まっているのは、大嫌いです(笑)。紹介するだけでは責任が取れない。そこに自分が関わっていないわけですから。

私が思う顧問の仕事は「貢献と還元」です。自分の知見と経験を、そこへ返していくこと。人脈も手段の一つではあるけれど、ダイレクトにアプローチするときは必ず自分も一緒に行く。間をつなぎながら、自分も動く。そうでないと責任が持てない。

紹介業は楽だし、コストもかからない。でも、紹介すればするほど自分の価値を下げているような気がして、あまり好きじゃないですね。

高橋: 顧問を使う企業側へのメッセージはありますか?

寒竹: 使う側が「顧問=人脈を持ってくる人」だと思っていると、お互いにもったいない。実を持った知見を、ちゃんと還元してもらえる人を探してほしいですね。そのためには、顧問をどこまで引っ張り回せるか、使う側にも覚悟が必要だと思います。顧問を上手に使いこなせる会社が、結果的に早く変われる。

■高校生に「微分と積分」で人の価値を教える理由

写真提供/寒竹聖一氏

高橋: 定年後の活動として、教育にも力を入れていらっしゃいますね。

寒竹: 鉄道の専門学校が起源の岩倉高校で、毎週土曜日に鉄道経営学の特別講義をしています。年間26コマ、2クラス続けて計200分しゃべる(笑)。ヘトヘトですよ。

なぜやるかというと、日本の4つの交通モード、航空・鉄道・船舶・自動車のうち、経営学が確立されていないのは鉄道だけなんです。航空にはエアラインビジネス学があり、自動車は道路行政としてしっかりとインフラを見ている。海運には商船大学と海洋高校があって、それが日本の海運業を世界レベルに育てた。でも鉄道は、国鉄民営化以来「赤字=廃線」という議論に終始してしまい、経営学が根付いてこなかった。

岩倉高校から私鉄に就職する生徒が多いのですが、現場に配置されたまま鉄道全体の経営が見えず、離職してしまうケースが後を絶たない。だから私が教えるのは技術や手順ではなく、「鉄道がどういう役割を持ち、どう成り立っているか」という横軸の視点です。

高橋: 授業ではどんなことを話すのですか?

寒竹: 先日、「人の価値はどうやって測るんだろう」という話になりました。そこで「微分と積分で見るんだよ」と言ったら、高校生がすごく食いついてきて(笑)。微分はその人が今どの方向に向かっているか、つまり成長の角度と速度。積分は生まれてから今まで積み上げてきた経験の面積。どちらかだけでは人の価値は測れない。

これはシニアにも当てはまる話だと思っています。積み上げてきた経験(積分)は誰にも奪えない。でも今どっちを向いているか(微分)も同じくらい大事。右肩上がりの角度を保ち続けることが、何歳になっても現役でいられる条件じゃないかと思いますね。

■志と覚悟を持てば定年後は面白い

高橋: 定年後も仕事が続いているのは、人とのつながりが大きいと思います。どんな人と一緒に仕事をされているのですか?

寒竹: 気が合う人、という言葉には二つの意味があると思っています。一つは、人と人が合う感覚。もう一つは、志や大義が合う感覚。私はどちらかというと後者で集まってくることが多い。

同じ方向を向いていると、似た思いの人が自然と寄ってくる。そういう人たちと、手弁当でワイワイやっているのが一番楽しい。岩倉高校の地域鉄道塾の活動も、もとを辿ればそういう出会いから始まっています。

高橋: 最後に、これから顧問や教育の分野で活躍したいシニアへ、メッセージをいただけますか。

寒竹: まず、「紹介業の顧問」だけはやめてほしいですね(笑)。自分の知見と経験を、ちゃんと使ってもらえる場所を選ぶこと。そして、それなりの覚悟を持ってやること。片手間ではできない仕事です。

もう一つ言うとすれば、自分のフィールドを新しいところへ持っていくチャレンジをしてほしい。私は乗り物業界での経験を、ベンチャー支援や高校教育という全く違う場所に持ち込んでいます。経験は積み重なっているほど、新しいフィールドで通用する。そこに気づくと、定年後がすごく面白くなる。まあ、向こうが喜んでくれるかどうかはわかりませんが(笑)。

高橋: 本日は貴重なお話をありがとうございました。


【編集後記:高橋啓の視点】

インタビューを通じて強く感じたのは、寒竹さんの「軸のぶれなさ」です。JALでも、バス業界でも、京都丹後鉄道でも、常に「大義」を起点に動いてきた。嫌われても切られても、ゴールだけはブレない。その一貫性が、退任後も次の現場から声がかかり続ける理由だと思います。

肩書きを外れた後も価値を発揮し続けるシニアは、経験を「売り物」にするのではなく、相手の課題に「返していく」感覚を持っている人が多いと感じます。

「貢献と還元」——この言葉を体現する寒竹さんの姿は、これからの時代を生きるシニアに多くのヒントを与えてくれるはずです。

取材・構成:プロ人材機構


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