「目標は絵に描いた餅」と知る強さ。 60歳からの起業は“危険予知”と“覚悟”で勝つ

対談:プロ人材機構 代表取締役社長・高橋 啓 × 株式会社ペティーナ 代表取締役社長・入山 公成
35年間、製薬開発の最前線にいた研究者が、なぜ還暦目前で安泰なポストを捨て、修羅の道とも言える「起業」を選んだのか。能登半島地震による工場の被災、資金繰りの苦悩、そして販路の大転換。数々のトラブルを乗り越える中で見えたのは、若手には真似できない「シニアならではの危機回避能力」と、次世代へ産業を残そうとする執念だった。株式会社ペティーナ(※1)入山公成氏に、シニア起業の真髄を聞く。

(※1)「株式会社ペティーナ」
ペットの歯茎外側に1日1回1枚のフィルム(ペティオーラⓇAD)を貼ることで15~30分かけてゆっくり溶けてなくなり、成分が口の中に長く留まる世界で初めてのペット用製剤を販売している会社です。

目次

1 危機感からの出発。「日本発の技術」を終わらせないために
2「思い通りにいかない」のが経営。被災で見えたシニアの底力
3 シニア起業の要諦は「危険予知能力」にある
4 世界のトップカンパニーへ。覚悟を持って挑む
5 編集後記:シニア起業の成功ポイント

危機感からの出発。「日本発の技術」を終わらせないために

高橋: 入山さんのキャリアは、まさに製薬業界のエリートコースそのものです。それを60歳手前で手放し、あえてリスクの高い「起業」を選んだ。その根底には、個人的な野心以上の“怒り”にも似た危機感があるように感じます。

入山: おっしゃる通りです。
35年間現場にいて、日本の製薬業、ひいては製造業全体が外資の資金力に押され、弱体化していく様を目の当たりにしてきました。

「このままでは日本のものづくりが終わってしまう」という焦りが常にあったんです。コロナ禍で社会が揺らぐ中、私は研究開発責任者のバトンを次世代に渡し、自分自身は「日本発のイノベーション」で世界に抗うための新しい場所をゼロから作ろうと決意しました。

高橋: そこで着目したのが「ペット用オーラルケア」だったと。

入山: はい。実は当初、ヒト用の口腔フィルム剤技術をペットに応用しようと、既存の企業に提案して回ったんです。でも、どこも断られた。誰もやらないなら、自分で会社を興して打って出るしかない。

調べてみると、1歳以上の犬猫の90%が歯周病と言われています。日本の技術で、愛する家族(ペット)の健康を守る。これなら世界で戦えると確信しました。

「思い通りにいかない」のが経営。被災で見えたシニアの底力

高橋: しかし、起業直後に能登半島地震が発生し、製造工場が被災。これは計画段階では予測できない事態ですよね。

入山: 本当に「目標は絵に描いた餅でしかない」と痛感しました。2024年1月の発売直前に工場が止まり、出荷が数ヶ月遅延。売上が立たない中で、特許申請や商標登録、サンプル作製などの出費だけが嵩んでいく。資金繰りは大変でした。

高橋: 普通なら心が折れる局面です。でも、入山さんはそこで立ち止まらなかった。さらには、販路のターゲットも大きく変えましたよね。

入山: ええ。当初は動物病院を主力と考えていましたが、もっと飼い主様との接点が多い場所へ変えるべきだと判断しました。現在はペットサロンやショップなど、製品の説明をじっくりできるマーケットへ舵を切っています。 このあたりの「ダメならすぐに次の一手を打つ」という切り替えは、場数を踏んできたシニアだからこそ迷わずできた判断かもしれません。

シニア起業の要諦は「危険予知能力」にある

高橋: ここを詳しく聞きたいです。一般的にシニア起業は「体力やITスキルで劣る」と言われがちですが、入山さんは逆に「シニアだからこその武器」があるとおっしゃっていますね。

入山: はい。最大の武器は「危険予知(リスク管理)」と「困難の切り抜け方」を知っていることです。

会社経営はトラブルの連続です。若い頃なら勢いで突っ込んで大怪我をする場面でも、我々には「これ以上進んだら危ない」という感覚値がある。そしてトラブルが起きても「あ、このパターンならこう対処すればいい」という引き出しがある。 時間は限られていますが、この「致命傷を避けて試行錯誤する力」こそが、シニア起業の生存率を高める鍵だと思います。

高橋: なるほど。「勢い」ではなく「熟練の回避術」で進むわけですね。一方で、組織づくりには苦労もあると聞きます。

入山: 現代のツールやスピード感とのギャップは確かにあります。それに、働き盛りの「中間世代」を採用するのは至難の業です。彼らには守るべき家族や生活があり、リスクのあるスタートアップには飛び込みにくい。 だから私は戦略を変えました。「まずはシニア同士で立ち上げ、軌道に乗せてからジュニア世代にバトンを渡す」と。

高橋: それは非常に現実的かつ、希望のあるモデルですね。 「シニアがリスクを取り、土台を作って若手に渡す」。 これぞまさに、経験資産を持った世代が果たすべき社会的な役割だと感じます。

世界のトップカンパニーへ。覚悟を持って挑む

高橋:最後に、これから起業を志す同世代へメッセージをお願いします。

入山: 「思い通りにいかないのが事業」です。その前提に立ち、それでもやり遂げる「覚悟」を持ってほしい。危機に直面して諦めるのではなく、そこを乗り越えるプロセス自体を楽しむくらいの気概が必要です。 我々には残された時間は少ないですが、試行錯誤しながら一歩ずつ進めば、必ず道は開けます。

高橋: 入山さんの視線の先には、どんな未来が見えていますか?

入山: 大学との共同研究でエビデンスを強化し、海外展開も本格化させます。目指すのは、日本発の技術で「世界のトップカンパニー」になること。この挑戦に終わりはありません。

高橋: 「危険予知」という守りの剣と、「日本再興」という攻めの剣。その二刀流で戦う入山さんの姿は、多くのシニアにとっての道しるべになりますね。本日はありがとうございました。

編集後記:シニア起業の成功ポイント

入山氏の話から見えてきた、シニア起業を成功させる3つのポイント。

  1. 「危険予知」を武器にする  体力勝負ではなく、経験に基づく「直感」と「撤退ラインの見極め」で致命傷を避ける。
  2. 採用のリアリティを受け入れる  働き盛り世代の採用は難しいと割り切り、「シニアで創業し、若手に継承する」というブリッジ(橋渡し)戦略をとる。
  3. 柔軟なピボット(方向転換) プライドを捨て、市場の反応に合わせて販路や戦略を柔軟に変える「泥臭い覚悟」を持つ。

【会社概要】 株式会社ペティーナ

代表取締役社長:入山 公成
35年の製薬研究開発キャリアを活かし、2023年に設立。ヒト用製剤技術を応用したペット用口腔内付着型フィルム「ペティオーラ®AD」等を展開。日本発の技術で、ペットと人のQOL向上を目指す。


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