金融とプロ人材、両側面から事業承継に取り組む二つのトッププレイヤーが、“数字では見えない現場のリアル”と“想いをつなぐ承継の可能性”について語り合いました。
近年、事業承継をめぐる新たな選択肢として、「サーチファンド」が急速に広まりつつあります。経営を志す個人（サーチャー）が、ファンドの支援を受けて中小企業の経営を承継するこの仕組みは、後継者不在に悩む日本の中小企業にとって、極めて有効な“第三者承継の手段”として注目を集めています。
一方で、特に地方の創業オーナーの中には、サーチファンドについて「利益最優先」「企業が買収される」といった誤解や抵抗感を持たれる場面も少なくありません。創業オーナーの“想い”を大切にする中小企業の現場においては、その距離感が大きな壁となっています。
果たして、サーチファンドは本当に「人材と企業をつなぐ最良の仕組み」となり得るのか。そして、地域企業の承継において“想い”はどう受け継がれていくべきか。
本シリーズでは、サーチファンドの国内草分け的存在であるYMFGキャピタルと、事業承継に関わる経営人材・プロ人材の紹介のトッププレイヤーであるプロ人材機構の対談を通じて、事業承継の本質と未来像に迫ります。
高橋（プロ人材機構）：本日は宜しくお願いします。
YMFGキャピタル様のお話は随所でお伺いしておりました。このような場を頂き大変光栄に感じております。
さて、事業承継に関わる後継者のヘッドハントの依頼を頂くケースは増えております。どうやら「後継者がいない」という言葉が独り歩きしているようです。私たちが現場で感じるのは、“人がいない”のではなく“見えていない”ということです。「地方で経営したい」「企業を引き継いで成長させたい」という思いを持った人が確実にいるのに、その想いが企業に届いていない。企業側も「誰にどう伝えればいいか」が分からない状態です。
藤本（YMFGキャピタル）：本日は宜しくお願いします。
そうなんです。金融機関として企業オーナーと接する中でも、それを痛感します。多くのオーナーが「他社の傘下に入るのは嫌だ」「乗っ取られるのではないか」「社員の雇用や理念を守ってくれる人にしか譲れない」と口を揃えます。でも、実は“譲れない”のではなく“託せる人に出会えていない”だけなんです。従来のM&Aだけではカバーしきれない領域が確かにあります。
高橋：私たちは、企業の志や理念、未来像を一緒に言語化し、それに共感できる候補者を探し出す仕事を行っています。条件やスキルマッチだけではなく、「この会社をなぜ継ぐのか」という問いに答えられる人材を選び出すのは非常に難しいですが、やりがいのある仕事です。
藤本：YMFGキャピタルのサーチファンドは、まさにそのニーズに応える仕組みです。事業会社同士のM&Aでは中々難しい“顔が見える事業承継”を実現するため、経営者候補（サーチャー）とオーナーの対話や承継前の擦り合わせを徹底しています。
事例：「志」が動かした承継
藤本：たとえば、福岡県の建設会社を継いだサーチャーの例があります。彼は企業経営に挑戦したいという気持ちをずっと持っていた。弊社主催の企業訪問ツアーへ参加したところ、縁もゆかりもない地域にあった現在の承継企業と出会い、自身であれば会社のポテンシャルを十分に引き出せると感じてくれました。後継者を探すのに苦労していたオーナーと複数回の面談を経て、双方が会社の未来について共通認識を持った上で、承継という挑戦を決意したのです。
高橋：そのような「共鳴」が生まれるのは、丁寧な対話と設計があってこそです。そして、大変僭越ながら、“選ばれる会社”になるという企業側からの働きかけも必要だと思います。経営理念やビジョンをしっかり伝えてもらい、候補者が納得して挑戦できるようにする。このようなプロセスを丁寧に行うことによって、ミスマッチが減り、承継後の成功率が高まると考えております。
藤本：従来のM&Aの世界では、財務デューデリジェンスが重視されますが、事業承継では“非財務情報”、つまりオーナーの想いや企業文化、地域との関係性が極めて重要です。私たちは地銀グループとして、その情報をいち早く把握し、サーチャーにとってもオーナーにとっても“納得感のある事業承継”を提供しています。
高橋：私たちは、経営を志すミドル層・シニア層のネットワークを有しております。大企業出身で「第二のキャリアとして経営に挑戦したい」という人や、地域に根差した事業をやりたいという人材が実はたくさんいる。プロ人材機構は、その“見えない人材”に光を当て、企業の“見えない想い”とつなぐ役割を担っています。
藤本：金融と人材、それぞれの立場から“人と企業の未来をつなぐ”というミッションに取り組む——これは、補完関係であり、これからの地域経済には欠かせないアプローチだと思います。
まとめ
「後継者がいない」のではなく、「想いが届いていない」だけ。日本の中小企業が抱える事業承継問題は、視点を変えれば“出会い”の問題です。YMFGキャピタルは、地銀ネットワークとサーチファンドを活用して“顔が見える事業承継”を設計し、プロ人材機構は、企業の想いを言語化し、それに共感できる人材を育て、送り出す。両者の協業は、単なる“マッチング”ではなく、“想いと地域の未来をつなぐ”ことにほかなりません。これが、いま事業承継の現場で起きている“静かな革命”なのです。
これから3回のシリーズによって、更にサーチファンドの実態に迫っていきたいと思います。