人脈営業は、経営層や意思決定者に直接アプローチできる手法として、多くの企業で活用されています。しかし、「トップに話を通せば決まる」という考えで進めると、意外に成果が出ないケースも多いのが実態です。その理由を掘り下げ、より効果的な営業戦略について考えます。
目次
- 1. 企業の意思決定は「トップ」だけではない
- 2. 【事例】化学メーカーA社のケース
- 3. 効果的なアプローチ
- 4. まとめ
1. 企業の意思決定は「トップ」だけではない
企業の意思決定は、単純にトップが「良い」と判断しただけで進むわけではありません。意思決定には以下の3層が関与します。
- トップ(経営層)
会社全体の戦略や方向性を決定
利益率や市場ポジションなど長期的視点を重視 - 購買部門(調達部門)
コストや契約条件を管理
価格と品質のバランス、既存の取引先との関係を考慮 - 現場(実際のユーザー)
製品やサービスの実用性を判断
業務フローとの相性を重視し、場合によっては導入に強い影響力を持つ。
このため、トップへのアプローチだけでは不十分であり、購買部門や現場の納得を得ることが欠かせません。
2. 【事例】化学メーカーA社のケース
A社は、高い商品開発力を持ち、多くのヒット商品を生み出してきました。しかし、最近では販売チャネルの中心がドラッグストアとなり、製造も海外工場に移管されたことで、顧客との接点が減少。結果として、売上が伸び悩むようになっていました。新商品を提案しても、他社との価格競争に巻き込まれ、A社の強みである「高付加価値の開発力」を活かせない状況が続いていたのです。
そこでA社は、顧問派遣会社と契約し、顧問から提案があった人脈リストに基づき営業を続けました。トップ営業として半ば無理やり取られたアポでもあったため、商談数は増えたものの成果にはつながりませんでした。また、A社は高付加価値を強みとしているため、単発の営業訪問で売れるような商材でもなかったことも、成果につながりにくかった一因と言えるでしょう。
その中で弊社に相談がありました。
弊社からは顧客のリアルなニーズを把握する体制の強化を打ち出し、具体的には以下の施策を提案しました。
- 現場の声を拾うため、販売店・消費者との直接対話を実施
- 価格ではなく付加価値で評価される製品開発
- ユーザー部門との連携を強化し、納得感のある提案を作成
ターゲット業界の商品開発・マーケティング責任者を歴任したシニア人材(X氏)をご提案。同氏を中心に、まずは現場が必要としているニーズを収集し、A社のシーズ(企業が持つ強みとなる技術やノウハウ)も考えながら、試作品の作成に努めました。
成果が出始めたのは、取り組みを始めてから4か月が経過してからでした。その間もX氏の知り合い経由でいくつかの小さな成功は収めていたものの大きなビジネスにはなっていませんでした。X氏発案で開発を進めていた商品について、A社がターゲットとする業界の大手から引き合いをもらいました。
現在ではA社は価格競争から脱却し、自社の強みを活かせる営業手法へとシフト。人脈営業ではなく、顧客の課題解決型の提案営業へと転換することで、新たな市場開拓に成功したのです。

3. 効果的なアプローチ
①現場からアプローチする
人脈営業では経営層にアプローチしがちですが、実際に製品やサービスを使うのは現場です。現場の意見を取り入れることで、導入のハードルを下げ、スムーズな営業が可能になります。
具体策:
- ユーザー向けに実際の活用シーンを想定したデモや導入事例を共有
- 現場ヒアリングを実施し、現場目線の課題を可視化
- 「この製品があれば業務が楽になる」と思わせる説明を行う
②購買部門へのアプローチ
購買部門は、価格や契約条件を重視するため、単純な「トップの意向」では動きません。
具体策:
- 価格以外のメリットを明確に提示
例:「初期投資は高いが、年間○○万円のコスト削減が可能」 - 他社との比較データやROI(投資対効果)を示す
- 契約条件を柔軟に調整できるよう準備する
③人脈を活用するなら「戦略的に」
単にトップと繋がっているだけでは、今の時代、商談の決め手にはなりません。
人脈営業を効果的に活用するには、以下の視点が重要です。
✅ トップがどこまで意思決定できるか事前に分析する
✅ トップと現場・購買の間にいるキーパーソンを把握する
✅ ただの関係性ではなく、明確な価値を提供できるか考える
特に、シニア人材を活用する際、「単なる紹介役」ではなく、顧客ニーズを拾い、営業戦略や商品開発に活かす役割として動いてもらう方が成功しやすいのです。

4. まとめ
人脈営業がうまくいかないのは、「トップに話を通せば決まる」と思い込んでしまうからです。実際の導入決定には、現場・購買部門の意見が不可欠であり、それぞれの立場を考慮したアプローチが求められます。
✔ 現場のニーズを把握し、導入しやすい形で提案する
✔ 購買部門の決定プロセスを理解し、価格以外の価値を提示する
✔ 人脈を活用するなら、単なる紹介ではなく戦略的に
このように考えることで、従来の人脈営業に頼らず、より実効性の高い営業活動が可能になります。