インタビュー『山内 豊』さん

―――――現在の活動状況を教えてください

5社の顧問と1社の社外取締役を務めています。今、75歳になりますが、定年退職するまでは資生堂一筋で働いていて、退職後から顧問などを務めるようになって現在に至ります。60代半ばの多いときには14社の顧問をさせて頂いておりました。

―――――なぜそれほど多くの声がかかるのでしょうか?

資生堂一筋とお話しましたが、私の場合は、化粧品だけではなくて、資生堂パーラーといった飲食事業、THE GINZAいったファッションを中心とした店舗、それから資生堂のビューティサロンなどの経営に関わってきました。資生堂ですので、最初は化粧品事業。赤字続きのドイツに8年赴任したんですが、私がドイツの経営のポジションに就いてから1年で黒字化することができたんです。その流れで、当時の資生堂社長からの一本釣りで資生堂パーラーの社長をお願いされたんです。化粧品で知られる資生堂ですが、そもそもはパーラーが資生堂の始まり、祖業なんです。だけど、もうずっと100年も赤字が続いていて、社長からなんとか立て直したいと、白羽の矢が私に立ったんです。私にとっては黒羽の矢でしたが(笑)。なぜなら、これからどんどん海外で資生堂化粧品を成功させようと意気込んでいたわけですから。ですが、そこから資生堂にいながら様々な経営に関わったことが今に繋がっているように感じています。

―――――いつから定年後の仕事を考えるようになったのでしょうか?

私は、定年になる1年前の59歳の時に探し始めました。人材会社にインターネットで登録したんですけど、当時はすぐに仕事が決まると思っていましたね。何も知らなかったので、1社ぐらいはあるんじゃないかと思っていたんですが、ほぼ1年間決まらなかったんです。その1年間、私を担当してくれていた人材会社の女性が、よかったら会社にいらっしゃいませんか?と声をかけてくれたタイミングがあったんです。それでその日にお会いした人材会社の社長さんから、うちは30代や40代の人を動かす会社なので紹介できる案件はないんですって直接言われたんです。初めて定年後にやりたい仕事を探すって難しいことなんだって気がついたんですよね。ほぼ60に近い資生堂が終わる頃でした。さらにその社長さんは、登録した私に担当の女性が連絡をしたのは、私のような世代の人をどう扱ったらいいかについて勉強しなさいと指示して連絡させたって。だから大変申し訳なかったって言うんですよ。私に連絡したのは社員教育のためだったって言うんですから驚きだらけですよね。ただその時に、うちの会社の仕事じゃないんですけど、社長の知り合いの石川・金沢のお寿司屋さんをご紹介できるので、やってみませんか?って言っていただいて。私にとって初めての顧問がスタートしたわけです。そこから累計40社の顧問として従事することができました。ちなみにその人材会社の子会社の役員に、私は後々なったわけなんですが、これもご縁だなって思いますね。

―――――顧問やアドバイザリーの立場で大切にされていることは?

やっぱりその社長と徹底的に話し込むということが大事だと思います。顧問やアドバイザリーの立場って、社長にその気がないと解約になるんです。私にも短期間で終了した会社はあります。実際に多くの企業に関わってきて分かったことは、社長に理解をもらうっていうのが本当に難しいということ。顧問の仕事のスタートとなった金沢の会社とは、社長の考えと後継者である息子さんとの考えの違いという課題が当初はありました。ですので、昼間は社長と顧問としてじっくり向き合いながら仕事をして、夜はその息子さんと経営者とはどうあるべきかなどを話し合っていました。そうすることで、その企業に必要なことが見えてくるんです。しっかりと課題と向き合ってリターンする形が作れれば、「この顧問でやっていればうちの会社は大丈夫だ」という信頼関係が作れると思うんです。企業は課題があるからこそ、結構な金額を私たちに期待して払っている。だから、その会社が払っているものをどれくらいで回収できるかを常に意識する姿勢も大事だと思っています。最初の顧問についた会社は、最初、月4日の契約でしたが、ちょっと足りないとなって月8日となり、最終的には3年間お仕事をさせて頂きました。信頼関係を築けると長期的に関わることもでき面白さが広がります。 実は、今私が顧問を務めている会社のうちの2、3社は、 10数年やらせて頂いています。

――――――シニアのみなさんが活躍するために

さまざまな企業が存在する中で、それぞれの業種に対して自分がどのように貢献できるかを理解しておくことが重要だと思っています。多くの方は長きにわたって定年まで勤めていたわけですから、やってきたことや人との繋がりなど、その人の強みとなるものはあるはずです。企業側は、自社を良くするために早期に効果を出せる人材を求めているため、自分がその能力を持っているかどうかを明確にする必要があるんですよね。

私の場合、資生堂時代に経営の視点からさまざまな業種に関わった経験が、現在に生かされていると感じています。それぞれの人にとって、自分が過去に何をやってきたか、そして自分だからこそできることを改めて理解しておくことが最も大切なように思います。

編集後記

資生堂時代に、グループ会社を含む多様な業態の組織を次々と黒字回復に導いた実績を持つ山内さん。その成功の背景には、企業の根本的な問題を見極めるために時間をかけて対話を重ね、信頼関係を築くことを大切にしていることが挙げられます。顧問としての役割と自分にできることを明確にすることで、関わる企業との長期的なパートナーシップを確立している点が非常に印象的でした。


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