―――――現在の活動状況を教えてください
今は2社で仕事をさせて頂いております。1社は小売業の会社で非常勤の監査役です。もう1社はIT系企業の顧問になります。月に何回か会社の方に行ったり、役員会議に出席したりといった感じですね。
―――――これまでのキャリアについて
大学卒業後、最初の15年間ぐらいはNTTと今で言う所のKDDIと通信系企業に勤めていました。そこでは財務や経理といった仕事が中心でした。組織としては十分すぎる環境だったんですが、会社が巨大すぎて、自分が歯車にもなっていないような感覚が正直ありました。それで、これから何十年も働いていくならば、何か知見を増やしながら、存在価値を生かせるようなところで働いていきたいっていうのが根底にあったんだと思います。それで、通信系企業のあと小売業に転職したんです。ただそこがベンチャー企業で、経営者がもっと大きな企業にしたいから上場したいよねとかって話になっていて、これまでとは大きく違った環境でした。とはいえ、会社のみんながみんな、同じようなスタンスで働きたいと思っているわけではない状況だったので、そこでどう組織を作って、人をどうやって生かしていくかっていうことに着眼して考える業務にも携わるようになったんです。財務とか経理とかではない業務は非常に新鮮でした。その時は終身雇用が一般的だったし、よく言えばチャレンジ精神が旺盛で、そもそも転職は無謀だった気もするんですが、今みたいな変化の多い時代に身を置いていて、それがすごく生かされているように思っています。当時は、経済的にも不安定になるし、覚悟をもった行動ではあったけれど、ある程度の年齢からいろんな会社をみることができたので、結果として 今、スタートアップだとかベンチャーだとか、上場はしたけどなかなか成長しきれない、再成長できないような企業に対して、経験をもとにアドバイスができている気がしています。
―――――40代から監査役のお仕事をされてきたそうですが?
はい、1番最初が40半ばぐらいですね。子供服の会社でナルミインターネッショナルという企業が、上場するタイミングの前に常勤の監査役で入ったのが最初です。上場にお付き合いさせていただいたご縁になりますが、私の監査役の仕事はそこが起点になっています。その後に成城石井で監査役を7年半ぐらい。今も関わっているIT系のエルテスという会社も常勤の監査役として2年ほど勤めた後に、役員になりました。そこは今年の5月の総会で退任していますが、顧問として関わっています。
―――――監査役として心掛けてきていること
それこそ人間関係がすごく重要だと思っています。社長に対しての審議もしなきゃいけないですし、単純に仲良しこよしでもまずいわけです。ですので、コミュニケーションの取り方はやっぱり大事にしてきました。40代の半ばから今なお監査役という立場で企業に関わらせて頂いていますけど、単に内部の経営監査という仕事だけではなくて、経営者と立場は違うけど、会社自体を良くしていくためにどうやってタッグを組んでいくかという姿勢やコミュニケーションの取り方。会社として何をやっていくことが1番望ましいかっていうことについて同じ目線で一緒に話し合ったり、意見交換とか話し合いをやったり。経営者とはもちろんですが、他の監査役のメンバーの方々との細やかなコミュニケーションを取ることを1番心がけてきたところだと思います。個人的にはこの経験を早くからできたことが、わたしにとって財産になっていると思っています。
―――――さまざまな業種・企業に関わったことで得られたもの
どんな会社でもそれぞれの企業風土とか文化は当然ありますし、仕事のスキルがあるからといって、どこの会社に行っても同じように力を発揮できるかっていうと、必ずしもそうとは限らない。私はもともとNTTにいて、当時はNTTの風土が自分自身にとって社会的な価値だと思っていました。他社では働いている人たちの価値観が全く違って、単に仕事の経験値だけで即戦力として仕事ができるというわけではありませんでした。周りの方たちに理解していただくとか、一緒に仕事をやっていく人たちとどうやって協力してやっていけるかっていうことを常に考えながら取り組んでやっと成し遂げられるものなんです。自分自身は、いくつかの会社を経験してきて適応能力っていうのがかなりできたように思っています。だからこそ、スキルがあれば成功するっていうのは、幻想以外の何者でもないと感じているんですね。今、シニアの方たちの多くが、60で定年なり、再雇用だとか定年延長で働かれている方がいっぱいいらっしゃると思うんです。その時に、新しい世界で、そこで仕事をやってやろうと思って、 自分が経験してきたことだけで、新しい場所で成功するというイメージを持っていらっしゃるとしたならば、なかなかイメージ通りにはいかないと思います。いろんな企業を見てきたから思うことは、スキル以前に、その環境に適応しようとする姿勢のように感じています。
――――――これからシニアが活躍するために
私は、これまで多くの職場を経験していますが、シニア世代のほとんどの方がそうではなく、同じ組織で長く経験を積まれていると思います。今、若い方たちがベンチャーとか スタートアップとか積極的にやる時代になったけれど、仕事として経験してきた量は、シニアには絶対叶わない。先人の声に耳を傾けろ。っていうわけじゃないけど、もっとその力を活かす流れが増えたらいいなと思います。そして、そこに私含めたシニアが上手くマッチするためには、歳を重ねても常に学ぶっていうことや、常に謙虚であるっていうこと。それが若い世代が築いている組織や人間関係に適応していくために大切なことのように思っています。
編集後記
監査役のキャリアがすでに20年近くになる伊藤さん。これまで多くの組織で柔軟に適応されてきた様子をお話から垣間見ることができました。今、この時代に合った働き方を率先して実行されてきた伊藤さん。組織をより良くするためのコミュニケーションを心掛けて取り組む姿勢をお持ちだからこそ、数多くの組織に求められているのだと感じました。