株式会社プロ人材機構のインタビュー企画「プロとして活躍するシニアのロールモデル」。 今回は、アサヒ生ジョッキ缶の開発を手掛けた伊藤義訓さんに、定年後に起業した背景、コーチングとの出会い、そしてシニアとしてのこれからの生き方について伺いました。聞き手は、プロ人材機構代表の高橋が務めました。
目次
- 生ジョッキ缶開発の舞台裏と「直感」の力
- 定年後の起業について
- 現在の取り組みについて
- シニアこそ、自分のためにワクワクを選ぶ
生ジョッキ缶開発の舞台裏と「直感」の力
高橋:伊藤さんといえば、ビールの大ヒット作を沢山生み出してきました。アサヒ生ビールゼット、生ジョッキ缶、そして最近だと「日本の皆さん、お疲れ生です」のマルエフ。どれも大ヒットでしたよね。
伊藤:ありがとうございます。それ以上の沢山の失敗もしてきました。また、ヒットと言われた商品の多くは、社内の反応はよくなかったことも多いんですよ(笑)。「そんな商品が売れるわけない」とか。反対も多くありました。
高橋:ええっ、そうなんですか?!
伊藤:ええ。でも僕は、「これはいける」と直感で感じたんですよ。理屈じゃないんですよ。もちろん事前に細かい市場調査をして商品化をしていくわけですが、一番大切にしているのは直感。マーケットや競合他社の動き、もちろん上司の考え。これらも大切ではありますが、私は一番は直感を大切にしています。これは部下から上がってくる企画についても、同様に部下の直感を信じるようにしています。
高橋:直感ですか。プロダクトアウトとか、マーケットインとか、そういう言葉よりも、まさに信念という言葉が当てはまる感じです。
伊藤:もちろん裏には、ビールの生産や研究を長年やってきた経験があります。まさに“論理在庫”です。論理在庫とは、これまでに学び、経験し、自分の中に蓄えてきた知識、データ、物事の法則性、成功や失敗の記憶のこと。直感って、実は、この蓄積された論理在庫があってこそ働くんですよ。
高橋:なるほど。これはシニアの方が持つ強みの話にもつながってきますね。
伊藤:そうなんですよ。特に私はマーケティング一筋ではなかった。もともとは博士課程卒でアサヒビールに入社した。院卒であれば通常は基礎研究に配属されることが多いのですが、私はあえて基礎研究を希望しないと人事に伝えていた。入社してからは研究開発、商品開発、マーケティング、生産技術など色々な部門を経験した。何かに一筋という訳ではなかったが、論理在庫を増やしていくという意味においては、これが私の強みになっていると感じています。

定年後の起業について
高橋:ところで、どうして起業しようと思ったんですか?
伊藤:60歳を過ぎて若手社員から、伊藤さんはこれから何をするのですか?と聞かれたのです。その言葉を機会に自分の将来を考えるようになりました。その時に思ったのが、人生100年時代と思うと、まだ半分しか経過していないということ。ここからが後半戦。これまではサラリーマンとして会社のために頑張ってきた。今後は、“自分のため”に何かしたいと思ったんです。
高橋:起業って、怖くなかったですか?
伊藤:もちろん最初は不安でしたよ。定款の作り方も知らなかったし(笑)。でも色々人に聞きながらやってみたら、意外と「できた」ことが多くて。今はITツールも沢山ある。以前に比べると起業のハードルが高くないのでは。
高橋:なるほど。起業として今はコーチングも中心にされていますよね。最初からやろうと思っていたんですか?
伊藤:コーチングは偶然出会いました。理系出身で商品開発やマーケティングの仕事を行っていると、どうしても人の心の理解というのが重要だという場面が多くて。ダイバーシティというのであれば、人それぞれの気持ちがある。そこに寄り添いたいと思うようになった。
その折にコーチングを勧められて勉強を始めたら、「これは面白いぞ」と。コーチングって、答えを与えるんじゃなくて、“問い”で気づきを引き出す仕事なんです。その後、起業に至ったのですが、自分が勉強していたコーチングをビジネスにしたいと思いました。
高橋:まさに人の内発性を大事にする仕事ですね。
伊藤:そうなんです。日本ではまだ認知度が低いけど、海外では経営者が必ずエグゼクティブコーチをつけることが一般的になっています。今後の日本でも、もっと広がっていくと思いますよ。今は日本エグゼクティブコーチ協会の会長として、自らコーチとして活動しながら後進の育成や業界の発展にも従事しております。

現在の取り組みについて
高橋:そして、伊藤さんは哲学や歴史にも造詣が深いですよね。
伊藤:僕、昔から知識を蓄積するのが好きで。いろんな分野の知識を“論理在庫”として持っておくと、必要なときに直感的に使えるんです。最近はリベラルアーツがまさにそれを補強してくれています。
高橋:それが対話の中でも活きているんですね。
伊藤:そうです。クライアントと話していて、「この問いはマキャベリが言ってたな」とかね(笑)。
高橋:現在のお仕事においては、どんな理念を大事にされているんですか?
伊藤:「内発性の尊重」と「応援の循環」です。コーチングで得た気づきは、他人に言われて腑に落ちるものじゃない。だからこそ、“気づき”を尊重し合える関係性を作る。それが応援の連鎖になるんです。
高橋:素敵ですね。支援されるのではなく、共に走るイメージです。
伊藤:まさにそれ。僕もたくさんギフトをもらってきたので、今は次の世代に申し送る番なんです。

シニアこそ、自分のためにワクワクを選ぶ
高橋:最後に、同世代のシニア世代に伝えたいメッセージがあれば。
伊藤:私がシニアの皆さんにお伝えしたいのは、「人生の主導権を自分に取り戻す」ということです。長い会社員人生の中で、私たちはどうしても会社や組織の論理で動いてきました。でも、定年後は違う。自分が何をしたいのか、誰と過ごしたいのか、どんな社会を作りたいのか。その問いを、他人ではなく“自分”に向けてほしい。
そして、その答えは、意外と自分の中にあるものです。私はコーチングを通じて、多くの方が「本当はこうしたかった」と口にする瞬間を見てきました。だからこそ、自分の“ワクワク”に正直になって、それに時間もお金も使ってほしいんです。
年齢は関係ありません。いくつになっても、新しいことに挑戦できるし、学び続けられる。それを証明するのが、私たちシニア世代の役割だと思っています。
高橋:本当にそう思います。今日はありがとうございました!
伊藤:こちらこそ、楽しかったです。またお話ししましょう。