プロとして活躍するシニア世代の方にインタビューを行う「LIFE TALK ─ プロの深みに潜る ─」。本日は、VCやアクセラレーターとの協業を通じて新たなリスクソリューション策を展開し最新の保険技術を駆使してスタートアップの成長支援を行っている三井住友海上火災株式会社 ビジネスデザイン部 部長の藤田健司さんに話をお聞きしております。
目次
- スタートアップと保険会社──異色タッグ誕生の背景
- “結晶性知能”でスタートアップの困りごとに応える
- シニアが担うペイフォワード──学び続ける姿勢と未来像
スタートアップと保険会社──異色タッグ誕生の背景
押田:スタートアップ支援の現場で、講演やイベントの審査員などで活発に活動している藤田さん。本日はよろしくお願いします。いつ頃からこの活動を始められたんですか?
藤田:1990年に入社してから営業や業務改革プロジェクト等を経て、2016年から今の仕事に就いています。当時は転職があまりよしとされない時代だったので、ずっとこの会社です。今は、VC(※1)、アクセラレーター(※2)との協業を通じてスタートアップ企業支援を行っています。
押田:そうですよね。保険会社がスタートアップと組むって、今でこそ増えていますけど、当時は珍しかったんじゃないですか?
藤田:まだまだでした。国内市場が縮小していくのは見えていましたし、「次の保険の柱を育てるにはスタートアップと歩むしかない」と考えていました。なので会社に提案し続けて、ようやく形になったという感じです。現在のミッションは、スタートアップ支援を通じて社会課題を解決することです。
※1 :VC(ベンチャーキャピタル)
スタートアップ企業などに対して、将来の成長を見込んで資金を投資する会社や投資家のこと。
※2 :アクセラレーター
スタートアップの成長を加速させるために、事業支援やメンタリング、資金提供などを行う支援プログラムやその運営組織。

押田:具体的にはどんな活動を?
藤田:大きく4つです。まずスタートアップ向けの専用保険の開発とリスクアセスメント。次にオープンイノベーション。三つ目が自治体や大企業とのビジネスマッチング。そしてCVC(※3)を活用した資金調達支援です。
押田:こういう取り組みは他社もやっているんでしょうか?
藤田:まだまだこれからのようですね。我々は売上やKPIを背負わされていないので、スタートアップの困りごとにじっくり向き合えます。売上重視だと、それが難しいんです。
押田:なぜスタートアップに着目されたんですか?
藤田:国内保険マーケットが先細りするのは目に見えていました。次の保険の柱を育てるにはスタートアップと組むしかないと、2013年頃から考えていました。当時は新聞の資金調達記事を見つけては、問い合わせフォームにDMを送る日々でした。
今でこそスタートアップ支援の場は多いですが、当時は細かい活動でした。それでも、当時もスタートアップ企業には凄い起業家たちがいるんだっていうのがその時にわかっていました。じゃあその人たちのお手伝いすることによって、僕らも新しいものが出来るのではないかと思っていました。
※3 :CVC(コーポレート・ベンチャー・キャピタル)
大企業が自社の戦略的な目的のためにスタートアップへ出資する仕組み。資金提供だけでなく、技術連携や事業提携なども視野に入れて行われる。

“結晶性知能”でスタートアップの困りごとに応える
押田:スタートアップの皆さんとは、どういうスタンスで向き合っているんですか?
藤田:まずは「困っていることを全部言ってください」とお願いするんです。保険のことは忘れてくださいと。すると大体6〜7割は当社のアセットで解決できますし、残りは外部の協力者を頼ります。たまに「それ保険で解決できますよ」っていうのがあると、嬉しくなっちゃいますが(笑)。
押田:それが藤田さんの強みですよね。スタートアップの困りごとに、経験や知恵を駆使して答えていく。自社のアセットで解決が難しい場合は外部の力を借りていく。このあたりって、言葉にするのは簡単ですが、なかなか実行するのは難しいと私たちは感じています。
単に行動するとかマーケットとして自社のシーズ(※4)を合わせるだけだとコンサルと変わらないんですけども、藤田さんのように経験が豊富な方は、沢山の引き出しをお持ちになっているので、ご自身の経験やほかの人の経験、まさに現場での実践知をつなぎ合わせて、スタートアップ企業の困りごとの解決につなげていく。
藤田:同世代の人も引き出しはたくさん持っているんですけど、それを出さない人が多い。若い人に自慢するんじゃなくて、使ってもらえればいいのに、と思いますね。人によっては、僕よりも、あちこちに知っている人もいるので、その引き出しは多いかもしれない。ただ、みんなが自分の持っている引き出しの中身に価値がないものと考えてしまい、人前に出さないですよね。それが本当にもったいない。
押田:藤田さんのように、経験や知恵を駆使して問題解決する「結晶性知能」と呼ばれています。シニア世代になっても伸びるスキルとして非常に注目されています。ご存じですか。
藤田:いえ、初めて聞きました。
押田:『結晶性知能』は、人生で積み重ねてきた知識や経験、判断力のことなんです。年齢を重ねることで高まる能力で、若い世代にはない強みだと言われています。藤田さんがまさにその好例です。
たとえば、スタートアップと大手とのマッチングも、皆さん、あの勘でやってらっしゃる方も多いようにも思うんですけど、実は、それは勘ではなくて、おそらく今までの整理された引き出しがあって、その整理された引き出しがあるからこそ、そこで思い浮かんでくるものだと思います。そのあたりは、まさに汎用性のあるスキルですし、再現性のあることだと思います。
※4: シーズ(Seeds)
企業が持つ技術・ノウハウ・リソースなど、事業の種(シーズ)となる要素のこと。ビジネス展開や提携時の出発点になる。

結晶性知能とは?ーシニア世代の“再現可能なスキル”
藤田:なるほど。確かに、若い人のフレッシュな発想に、僕らの知恵や経験を掛け合わせると、すごくいい結果が出ることが多いですね。よく三井住友海上として向き合っているのか、個人として向き合っているのか、聞かれることもあります。実際は両方あわさってだと思います。そういう人材がエコシステムの中に入ってきて、更に多くの人材を巻き込んでいきながら、自分の引き出しを増やしていけるといいですね。
押田:藤田さんはマッチングの現場でも、ただ紹介するだけじゃなく、同席してサポートするのが印象的です。
藤田:スタートアップの皆さんは、自治体や大企業と話すことに慣れていないことも多いので、必ず同席します。紹介する相手の意図や期待も伝えながら進めると、うまくいく確率が高いのです。

シニアが担うペイフォワード──学び続ける姿勢と未来像
押田:最後に、今後やりたいことを教えてください。
藤田:今の活動を続けながら、「まだまだ学びたい」「若い世代に貢献したい」と思うシニアを、一人でも増やしたいですね。
押田:それは素晴らしいですね。私も、志高く活動するシニア同士がつながる場を作りたいと思っています。実は、志高く活動しているシニアの方は沢山いらっしゃるのですが、その方々の活躍が見えてこない。周りからは、何歳まで働くの?もうゆっくりすれば?なんて言われる(笑)。だから、活躍するシニア同士がつながる、コミュニティのような場をつくりたいと思っています。
藤田:いいですね。肩書きは関係なく活躍できる人がたくさんいることを伝えたいですね。そして、私は今の動きをとにかく品質落とさずに続けていきたい。特に私たちのようなシニア世代が、ペイフォワード(※5)ではないですが、自分の持っているアセットを次世代につないでいって、成長したいとか、知識を集めたいと思う同世代を一人でも増やしたいですね。
押田:素敵です。多くのシニアが勇気づけられるインタビューになりました。本日は本当にありがとうございました!
藤田:こちらこそ、ありがとうございました。
※5: ペイフォワード(Pay it forward)
誰かから受けた親切を、別の誰かに「先送り」して与えるという考え方。恩を返すのではなく、善意を次の世代や他の人に渡していく行動を指す。

藤田 健司 氏 プロフィール
三井住友海上火災株式会社 ビジネスデザイン部 部長
1990年、早稲田大学法学部卒業。
グループ業務プロセス改革プロジェクトに独立後、営業推進部門・企業営業部門を経て、2016年より現職。 VCやアクセラレーターとの協業をわかりやすく、新たなリスクソリューションを展開し、最新の保険技術を活用してスタートアップ企業の成長を支援。 また、三井住友海上キャピタルのパートナーを兼務し、投資開発、ビジネスマッチング、オープンイノベーションを活用した投資先のバリューアップにも参加。
【公職・アドバイザー】
・渋谷区スタートアップエコシステムスペシャルアドバイザー
【教育・コミュニティ】
・経営イノベーション専門職大学客員教授
・VCスタートアップ健康保険組合アンバサダー
・Shibuya QWSコミュニティパートナー
・渋谷 国際都市 共創機構SII:Shibuya Innovation Institute
【メンター活動】
・Kawasaki Deep Tech Accelerator
・デロイトトーマツベンチャーサポート Gateway SAGA
・港区 MINATO Accelerator
・EYアクセラレーション
【その他の役職】
・早稲田大学代議員 / ベンチャー稲門会事務局
・佐賀県ビジネスアンバサダー / 公益法人佐賀育英会評議員